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『アンチクライスト』

やっとの思いで映画『アンチクライスト』(2009)を鑑賞した時の感想メモ。

 

 

 

ラース・フォン・トリアー作品

数年前に『ニンフォマニアック』を見て、同じくラース・フォン・トリアー監督作の『アンチクライスト』もいつか見なきゃと思いつつ、何年も経ってしまった。なぜなら見るのに非常に覚悟のいる作品だからだ。

 

悲劇が狂気を生む≠狂気が悲劇を生む

あらすじはこうだ。子どもを不注意で亡くしてしまった夫婦。精神科医である夫は精神的に病んでいる妻の療養のため、人里離れた山小屋へ妻を連れて行き、そこで二人で生活を始めるのだが…。

お医者さんは自分の家族を看ない方が良いと言うが、この映画はそれが痛いほどよく分かる映画だった。

冒頭のモノクロのスローモーションのシーンがとてもきれいで印象的。悲劇なのにずっと眺めていたいような不思議な映像。曲も相まって一気に物語に没入させられる。雪の表現も良かった。

 

人を試す映画

人間の「業」と言うのか、抗えない欲望のために壊れていく妻。しかし、こうなる前からどこか壊れていたのかもしれない。それはセラピーに通って治せるような代物ではなく、もっと人間の本質の部分の問題なのだ。『ニンフォマニアック』の主人公にも通じる悩みだが、ある意味『アンチクライスト』の妻の方が最後にやりたいことをやるだけやって解放されたのかな?と思う。

有名な例のシーンだけではなく、思わず目を背けたくなる痛いシーンが複数ある。まるで見る側の精神状態を試されているかのようだ。映画を見終わって、あぁこれは物語だ、おとぎ話なんだと思ったらやっと安心することができた。

ところで映画の本筋とは全く関係ないところで唐突に動物が出てくると、大抵その後酷い展開になるのは映画あるあるなのだろうか?今回の映画でも唐突に動物のシーンが出て来て、一気に不穏な空気に。あそこで嫌な予感がして、ここからは歯を食いしばって見なければ…と覚悟が決まった。

 

化け物的俳優

シャーロット・ゲンズブールがエキセントリック過ぎて着いていけない。この人のいつも淡々とした迷いのない眼が怖い。次の行動が全く読めないところが狂ってるなぁと思う。もっと普通の役を演じればいいのにと思うけど、シャーロットの内なる狂気をここまで引き出せるのはこの監督しかいないのだろう。ご両親はまさか娘がこんな役者になるなんて思いもしなかっただろうに…。

そしてウィレム・デフォー。この人は不思議な俳優だと思う。彼は仕事を選ばないのだろうか…。Wikipediaで出演作を見ていて本当に色々な映画に出てる人だなと感心する。『ライトハウス』を見た時も思ったが、よくこんな役やるなぁ…と。きっと仕事人みたいな人なのだろう。いつまでも映画界で活躍してほしい俳優だ。